ロクトリポート

プラネタリウム「ノチウ」星座 vol.8 動物たち

イランカラプテ!

皆様いかがお過ごしでしょうか。
4月17日の連載開始からもうひと月がたとうとしています。このひと月という長さ、もともとは空の月の満ち欠けがもとになった単位で、新月から満月になってまた新月になる、というひとめぐりを暦として用いたのがはじまりでした。満ち欠けのひとめぐりは約29.5日、より正確には29.530589日。例えば満月を見て、何日も過ぎてまた満月を見たときに「ああひと月たったんだな」と考えるのにちょうどよいわけですね。ちなみに2020年の満月の日は1月11日、2月9日、3月10日、4月8日、5月7日、そして次は6月6日。どんな日々を迎えているでしょうか。

それでは、臨時休館と、全編生解説プラネタリウム「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」の投影中止に伴い、アイヌ民族の星座をweb上でご紹介する企画のvol.8です(初回は>> プラネタリウム「ノチウ」紹介 vol.0 )。
ご覧くださり、イヤイライケレ !!!!!!!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※アイヌ民族の星の話題は、この書籍からご紹介しています。
<出典> 末岡 外美夫(すえおか とみお)著
書籍 人間達のみた星座と伝承
『アイヌの星』/『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※スマートフォンなどの画面では、星座の名前が正しく表示
されないことがあります。星座名を正確に表示するには
「PC用の表示に切り替える」などの機能をお試しください。
例:ラが小さく表示されればOK → レタ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■星いろいろ
この連載でも度々ご紹介している春の大曲線。北斗七星のひしゃくの形から、持ち手を伸ばして南へたどるアステリズム(目印)です。今日はこの春の大曲線から、いくつか星を見つけてみましょう。

1. 北斗七星を探す(ひしゃくの形です。5月の夕方から夜にかけては、北の空の高いところ)
北斗七星

2. アークトゥルスを探す(ひしゃくの持ち手の長さを確かめて、持ち手一本分、伸ばして二本分…とたどった先に明るい星がひとつ)

3. スピカを探す(持ち手をそのままさらに伸ばすと、また明るい星がひとつ)
スピカ

このアークトゥルスとスピカ、空で見ると、肉眼でも色の差が感じられるかもしれません。
空の星の色は、いろいろ。アークトゥルスは赤っぽい星、スピカは白っぽい星で、しかも両方とも明るめなので、日頃星を見慣れていない方でも観察がしやすいはずです。
vol.2 星座 金星 でも冬の季節の赤い星をご紹介しましたが、今日は初夏に見やすいアークトゥルスに注目してみましょう。

■アークトゥルス
それでは突然ですがクイズです。
Q アークトゥルスには、アイヌ語で「フレ・スマリ」という名が付けられています。その意味は?
(a) 赤いきつね (b) 緑のたぬき (c) 黒いカレーうどん



A 「 (a) 赤いきつね 」
色ですぐわかってしまいますね。ちなみにフレは5月5日のおまけクイズの問題にもなっていましたが、赤を表すことばだと覚えておられましたか?

フレ・スマリ(赤い狐)フレ・スマリ(huresumari = hure・sumari)【赤い・狐(きつね)】
狐を意味するチロということばがありますが、北海道の北の方では狐をスマリとも呼びました。でもなぜ赤いのでしょう。

「昔、エサマ(獺:かわうそ)の魚を盗んだスマリ(狐)が、エサマにつかまった。話し合いの末仲直りの酒盛りをしたのだが、エサマが寝たすきにスマリは逃げ出すことにした。しかし慌てたスマリはエサマの顔を踏みつけてしまう。エサマは怒ってスマリを追いかけ、捕まえると、鮭の筋子をスマリにぶちまけた。そうしてスマリの毛は赤くなって、フレスマリ(赤い狐)と呼ばれるようになったという。そして踏まれたエサマの顔は平らになってしまったという」

鮭の筋子で赤く染まったとは、なんとも北海道らしい物語です。なお別の伝承での狐と獺は、アイヌが漁をした魚を盗んで罰をうけますが、その仕返しにアイヌに病を流行らせたといいます。そのため、狐と獺が魚を盗んでもアイヌはあまりひどい仕打ちはしないのだそうです。
さて、赤い星は、狐だけでなく蝦夷貂(えぞてん)に見立てられることもありました。

カスペキラ・ノチゥ
カスペキラ・ノチゥ(kasupekiranociw > kasup・e・kira・nociw)【木製のスプーン・を持って・逃げる[カムィ]・星=杓子泥棒星=蝦夷貂(えぞてん)星】

「昔、カスペキラ(蝦夷貂)は誇り高いカムィだった。カスペキラのカムィは、月夜と子どもが大好きだった。月の光に輝く姿はとても美しく、陽の光のもとでは子どもたちと仲良く遊んだ。子どもたちが危ない川に近寄れば、必ずカスペキラのカムィが出てきて安全な所へ導いてくれた。
ところがある時から、カスペキラは姿を見せなくなった。
そしてなぜか、アイヌの家の中のカス(木製のスプーン)が、あちこちでなくなり始めた。
どうも、カスペキラのカムィがカスを土産にして森へ入っていくのである。
そこで人々は丁寧にカスを作ってお供えしたが、カスペキラのカムィは見向きもせず、人々が日頃使っているカスを持って行ってしまう。ごちそうも作ってお供えしたが、やはりカスを持って行ってしまう。
と、ある時、カスペキラのカムィが年老いたキムエカ(熊爺)といるところを子どもが見た。体を動かすのもやっとのキムエカを、料理番であるカスペキラのカムィが一生懸命にお世話をして、カスにのせた食事を差し出しているのだった。
こののち、献身的なカスペキラのカムィを、天のカムィは空の星にした。カスペキラ(=カス泥棒)などと呼ばれてはいるが、カスペキラのカムィは、空に輝く星のように、美しく、誇り高いカムィなのだ」

熊のお爺さんにご飯を食べてもらいたい蝦夷貂の姿。なんとも心を打たれます。すばしこい蝦夷貂の動きは、働き者の料理番にはぴったりです。

■スピカ

白っぽい星スピカにも、アイヌ語の名前があります。

ホロケゥ・ノチゥ
ケゥ・ノチゥ(horkewnociw = horkew・nociw)【狼(おおかみ)・星】

狼はアイヌにとって狩猟のカムィでした。しかし北海道のエゾオオカミは、今は絶滅してしまいました。絶滅するずっと前には、人々は狼と犬の両方をセタと呼んでいたそうです。なお、アイヌ民族もセタ(犬)を飼うことがありましたが、多くの地域ではセタはカムィとはしなかったようです。
ケゥ・ノチゥには、娘が語るというこんな物語が伝わっています。

「私には兄がいた。兄が大蝮(まむし)との戦いに傷ついてとうとう動かなくなったので、私は兄を抱きしめていた。そのまま私が眠ってしまうと、美しい女性が夢に出てきた。
『私の娘よ、よく聞きなさい。立派な狼のカムィがお前の父親なのです。地上に降りたお前を育ててくれたのが働き者のその若者です。兄を助けて幸せにおなりなさい』
気が付くと私は美しい人間の娘になり、かたわらには白い雌犬の抜け殻があった。そうして毎日兄の世話をして、二人でまじめに暮らしていると、母がまた夢に現れてにこにこと笑いながら、
『これで心置きなく雲の上のカムィの国へ帰れます』
と言い残し、空の彼方へ飛び去った。春の空に星が輝きながら舞い上がる、これは狼のカムィであった私の母が、空に舞い昇った姿なのだ」

娘を見守る狼のカムィの星、ホケゥ・ノチゥ。5月の空で私たちのことも見守っています。
ちなみに、北海道旭川市にある旭山動物園のシンリンオオカミの一家には、2015年4月28日生まれのオスの「ノチウ」とメスの「フミ」がいます。フミはアイヌ語で“音”。ノチウは、…もうわかりますね!

それでは、前回のクイズの答え合わせです。

Q8 色を表すことば、「クネ」と「レタ」。これはどんな色?

<答> A8 クネ…黒 レタ…白
ネ・チュ・カムィ【暗い・天体・のカムィ】を思い出された方、お見事です。レタはマンガ『ゴールデンカムイ』に登場する狼の名前にもなっていますね。

<おまけクイズ>
Q9 太陽を助けてほめられたという生き物がいます。4本足の生き物です。いったい誰でしょう? 答えは次回!(火・金の14:00に連載予定です)

全編生解説プラネタリウム 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」
開館が再開次第投影開始 ~ 5月31日(日)まで

※臨時休館延長に伴い中止が決定いたしました。再投影は検討中です。(5/7)

講演会「ことばから見るアイヌ文化と自然観」
2020年5月30日(土) 17:10~18:40
講 師:中川 裕(千葉大学 文学部教授)
4月11日(土) 10:00より受付開始
※今後の社会情勢に応じて変更になる可能性があります。

※延期が決定いたしました。日程を調整中です。(4/17)
※一旦中止とし、改めて実施を検討いたします。(5/19)

<出典>
末岡外美夫(すえおかとみお), 1979. 『アイヌの星』
末岡外美夫(すえおかとみお), 2009. 『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』

<全編生解説プラネタリウム「ノチウ」web連載@ロクトリポート>(リンクはご自由に)
vol.0 番組紹介            「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」/アイヌ民族の星座
vol.1 星座 北斗七星①    ウシノカ・ノチウ/クットコノカ・ノチウ/北斗七星/恒星カムイ
vol.2 星座 金星            金星/疱瘡のカムィ/フレケタ/セレマック/ベテルギウス
vol.3 星座 北斗七星②    シアラサルカムィノカ・ノチゥ(尾の長い熊)/弓矢/舟
vol.4 星座 月と太陽       月/ア(月の知人)/三角星/鯨/イナゥ/ひしゃく
vol.5 星座 四つ星          かたつむり/船/レラ・チャロ(風の吹き出し口)
vol.6 星座 天体と季節    月の形/朝昼夜/季節
vol.7 星座 めぐる星       追われる娘たち/蛇/踊る娘たち
vol.8 星座 動物たち      狐/貂/ホケゥ・ノチゥ(狼)
vol.9 星座 さそり①      龍
vol.10 星座 さそり②    ザリガニ/カナカムィ(雷[龍]のカムィ)
vol.11 番外編              関連webサイト紹介
vol.12 星座 ねずみの倉  ねずみの倉/疱瘡のカムィ/日食
展示紹介                    アイヌ民族の着物を展示中!
※連載はvol.12で一旦終了ですが、今後も番外編を企画しています。