イランカラプテ!
皆様いかがお過ごしでしょうか。
宇宙ステーションへ物資を送る補給機「こうのとり」9号機を載せて、H-IIB(えいちつーびー)ロケットが昨日5月21日未明に打ち上げられました。補給機「こうのとり」は全長10m、直径4.4m、補給品を含めた重さは16.5t。この「こうのとり」を、地球の重力を振り切って宇宙空間へと押し上げるために、全長56.6mのH-IIBロケットが使われます。連載 vol.9 で龍の星座ホヤウノチウをご紹介しましたが、昨日の打ち上げは夜中の暗い時間帯だったので、ロケットの閃光と音、そして噴煙も、まるで天に昇る龍のようにも見えたのではと思います(昨今の事情で、現地種子島でも無観客打ち上げでしたが)。この噴煙も風に流れて龍のように姿を変え、とてもかっこいいんですよ。また、「こうのとり」が宇宙ステーションにドッキングする際に、宇宙ステーションのロボットアームが「こうのとり」をつかむ様子も、龍が腕を伸ばすようでかっこよくておすすめです。
>> ロケット打ち上げに新たな楽しみ—関東でも見える「夜光雲!?」(三菱電機DSPACE 読む宇宙旅行)
>> 5月25日(月)20時50分~「こうのとり」9号機キャプチャ(把持)ライブ中継(YouTube JAXAチャンネル)
実は「こうのとり」とH-IIBロケットは今回で引退で、これからは開発中の補給機「HTV-X」とH3ロケットにバトンタッチされていきます。ちなみに北海道にも、ロケットや人工衛星などに関わる宇宙関連企業や、実験場があります。
>> H-IIBロケット打ち上げ前のブルーライトアップ(JAXA Twitter)
>> こうのとり打ち上げ風景・ライブ中継アーカイブ(JAXA きぼうフライトディレクタ Twitter)
それでは、臨時休館と、全編生解説プラネタリウム「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」の投影中止に伴い、アイヌ民族の星座をweb上でご紹介する企画のvol.10です(初回は>> プラネタリウム「ノチウ」紹介 vol.0 )。
ご覧くださり、イヤイライケレ !!!!!!!!!!
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アイヌ民族の星の話題は、この書籍からご紹介しています。
<出典> 末岡 外美夫(すえおか とみお)著
『アイヌの星』/『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
※星座名・星名表記は一部改めています。(アイヌ語指導 成田英敏氏)
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※スマートフォンなどの画面では、星座の名前が正しく表示
されないことがあります。星座名を正確に表示するには
「PC用の表示に切り替える」などの機能をお試しください。
例:ラが小さく表示されればOK → レタラ
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■さそり座
前回 vol.9 では、さそり座付近の星を龍に見立てたホヤウノチウ(龍・星)をご紹介しました。今回もこの さそり座の星を眺めてみましょう。今日の午前0時頃ならほぼ真南の空、アルファベットのJやS字カーブのような形が さそり座。みなさんだったらどんな星座を考えますか? 天の川と組み合わせた星座も作れそうですね。
■ホロカテレケプ
ここで、前回のクイズを思い出していただきましょう。
Q10 ホヤウノチウの星並びを、アイヌ民族は別の生き物に見立てることもありました。はさみを持っている、さそりではないいきものといえば…?
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ホロカテレケプ・ノチウ( horkaterkep・nociw )【 ザリガニ※・星 】
ケマシテノチウ( kemastenociw > kemaste・nociw )【 食いしん坊・星 】
※ザリガニについて
ホロカテレケプ(逆さに・跳ねる・もの)は本来エビを意味する言葉で、多くの地域では
ホロカレイエプ(逆さに・這う・もの)でザリガニをあらわします。
ザリガニ星の伝承は「ホロカレイエプ」だったのではないかとも推測できますが、ひとまずここでは参考にした書籍に倣い、ホロカテレケプのままで記述します。
北海道には古くからザリガニが生息していました。ただ現在は食用に持ち込まれた外来種が増えてしまったので、こちらは捕獲し食品として活用されたりしています。アイヌ民族の人々は、干して砕いたザリガニを薬として用いることもあったそうです。ケマシテノチウの名は、出典元の末岡さんの書籍では、「ザリガニの貪欲な食性から生まれた星名であろうと思われる」と書かれています。
では、ここでひとつ物語を見てみましょう。
<出演>
ホロカテレケプ(ザリガニ)
カンナカムイ(雷[龍]のカムイ)
カンナカムイの妹
カントコロカムイ(天のカムイ)
コタンコルフチカムイ(コタンを支配する女のカムイ=梟の女のカムイ)
「昔、ホロカテレケプは、天のペッノカ(川の姿=天の川)に住む尊いカムイだった。彼は酒が大変好きだった。
さてある日、地上の様子を見たカンナカムイの妹が、アイヌの人々が飢えていることを知った。妹から話を聞いた兄のカンナカムイ(雷[龍]のカムイ)は、ホロカテレケプを呼んで、食糧を人々に届けるように命じた。
ホロカテレケプは急いで地上へ降りようとした。しかし飲み残しの酒があることを思い出した。もし地上に降りるとすぐには帰れない。そこで、ホロカテレケプは酒を飲んでから出かけようと思った。一杯、二杯、三杯、四杯…ホロカテレケプはすっかり酔ってしまった。
さて、カンナカムイの妹が地上の様子をまた見てみると、食糧が届いた様子がない。どうしたのだろうとホロカテレケプの様子も見てみると、なんとホロカテレケプは酔っぱらって、赤い顔をしてぐうぐう眠っていた。カンナカムイの妹はそれをカンナカムイに伝え、カンナカムイはそれをカントコロカムイ(天のカムイ)に伝え、カントコロカムイはホロカテレケプをつまみ上げて地上に放り出した。それ以来、ホロカテレケプは川や沼のなかでこそこそと生きているのだ。
一方カンナカムイは、足の速いコタンコルフチカムイ(梟の女のカムイ)に、地上へ食糧を届けさせることにした。コタンコルフチカムイはペッノカのほとりの柳の枝を、杖替わりにして地上に降りた。そして柳の葉に食糧をつけて川に流した。その柳の葉はシシヤモ(柳葉魚)になり、人々は飢えから救われることになった。
夏のペッノカには、天のザリガニの姿である「ホロカテレケプ・ノチウ」が見える。ホロカテレケプが天上に住んでいた時の姿を、カンナカムイの妹がカントコロカムイに頼んで星として残したのである。天のザリガニのサンペノチウ(心臓星)が赤いのは、星になっても酒気が抜けないせいである」
なるほど、ザリガニはもともと天に住むカムイだったのですね。そして雷のカムイが地上の様子をうかがって人々の暮らしに恵みを与えるという、アイヌ民族の世界観もよくわかります。
さて、物語の中に「酔っぱらった」や「赤い」ということばが出てきました。空でさそり座付近を見たことがある方はぴんときたかもしれません。そう、さそり座で最も明るい星アンタレスが物語に織り込まれています。アンタレスは肉眼で見ても赤みを感じやすい星で、その色をアイヌ民族もしっかり見ていたのですね。このアンタレスにはアイヌ語でたくさんの呼び名が伝わっています。
ポロフレノチウ( porohurenociw > poro・hure・nociw )【 大きい・赤・星 】
ポロフレケタ( porohureketa > poro・hure・keta )【 大きい・赤・星 】
ウフィケタ( uhuyketa > uhuy・keta )【 火事・星 】
サンペノチウ( sampenociw = sampe・nociw )【 心臓・星 】
ホヤウサンペ( hoyawsampe = hoyaw・sampe )【 龍・の心臓 】
ホテレケリコプ( hoterkerikop > hoterke・rikop )【 飛び上がる・星 】
ホテレケリコプには、あるカムイと海亀が酒の飲み比べをした時に、カムイがホロカテレケプ(ザリガニ)で作った薬を飲んで、しかも酔うたびに飛び上がって酔いをさましながら酒を飲んだので勝負に勝った、という伝承もあります。アンタレスが赤いのは、その酔いが星に届いたからなのだそうです。
・・・・・
ホロカテレケプ・ノチウ(ザリガニ星)にシシヤモという魚が出てきました。アイヌ民族にはシシヤモの伝承が複数あるのですが、このシシヤモの名、もとはススハム(柳・の葉)がなまったもの。そう、これは私たちの食卓の“シシャモ”。アイヌ語の名前だったのです。ただし現在、シシャモは乱獲で数が減り、私たちが日頃目にするシシャモは実は海外から輸入した近縁の魚、キャペリンがほとんどです。
もともと北海道に生息しているシシャモは、柳の葉が散る晩秋に、太平洋から川へ遡上し産卵します。ちょうど10~11月頃の日暮れホヤウノチウ(龍・星)が西に沈みかけ、さらに雷鳴が響き渡るという季節でもあります。シシャモが特産品の北海道むかわ町(恐竜のむかわ竜の“むかわ”です! ※ )のアイヌの人々は、晩秋の雷をシシヤモカムイフム(シシヤモ・[カンナ]カムイ・の息=シシヤモ雷鳴)と呼んだそうです。
※国内最大の恐竜全身骨格化石「むかわ竜」、学名は「カムイサウルス・ジャポニクス」です。
>> 日本の竜の神 カムイサウルス・ジャポニクス(通称 むかわ竜(むかわ町穂別産))(むかわ町webサイト)
みなさんには、雷の思い出はありますか?
東京でも雷が時々轟く季節ですが、光は1秒間に30万km進む(ちなみに地球から月はおよそ38万km)のに対し、音は1秒間に340mしか進みません。1秒間に340m、3秒でだいたい1km。もし、カンナカムイ(雷[龍]のカムイ)の光に気づいたら、その声が聞こえるまで「0、0、1km、1、1、2km、2、2、3km、…」と毎秒数えればカンナカムイがどれくらい近くにいるのかわかりますよ。もちろん安全には気を付けてくださいね。
さて、この連載も今日で10回目となりました。お付き合いいただきどうもありがとうございます。そろそろ連載も終盤となってきましたが、次回は番外編として、インターネットなどで触れられるアイヌ文化について少しご紹介してみたいと思います。
それでは、前回のクイズの答え合わせです。
Q10 ホヤウチウの星並びを、アイヌ民族は別の生き物に見立てることもありました。はさみを持っている、さそりではないいきものといえば…?
<答> A10 ザリガニ
<おまけクイズ>
Q11 食事のときのアイヌ語「ヒンナ」。いったいどんな意味でしょうか? 答えは次回!(火・金の14:00に連載予定です)
全編生解説プラネタリウム 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」
開館が再開次第投影開始 ~ 5月31日(日)まで
※臨時休館延長に伴い中止が決定いたしました。再投影は検討中です。(5/7)終了
講演会「ことばから見るアイヌ文化と自然観」
2020年5月30日(土) 17:10~18:40
講 師:中川 裕(千葉大学 文学部教授)
4月11日(土) 10:00より受付開始
※今後の社会情勢に応じて変更になる可能性があります。
※延期が決定いたしました。日程を調整中です。(4/17)
※一旦中止とし、改めて実施を検討いたします。(5/19)終了
<出典>
末岡外美夫(すえおかとみお), 1979. 『アイヌの星』
末岡外美夫(すえおかとみお), 2009. 『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
<全編生解説プラネタリウム「ノチウ」web連載@ロクトリポート>(リンクはご自由に)
vol.0 番組紹介 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」/アイヌ民族の星座
vol.1 星座 北斗七星① ウㇷ゚シノカ・ノチウ/クットコノカ・ノチウ/北斗七星/恒星カムイ
vol.2 星座 金星 金星/疱瘡のカムイ/フレケタ/セレマックル/ベテルギウス
vol.3 星座 北斗七星② シアラサルシカムイノカ・ノチウ(尾の長い熊)/弓矢/舟
vol.4 星座 月と太陽 月/アムキリクル(月の知人)/三角星/鯨/イナウ/ひしゃく
vol.5 星座 四つ星 かたつむり/船/レラ・チャロ(風の吹き出し口)
vol.6 星座 天体と季節 月の形/朝昼夜/季節
vol.7 星座 めぐる星 追われる娘たち/蛇/踊る娘たち
vol.8 星座 動物たち 狐/貂/ホロケウ・ノチウ(狼)
vol.9 星座 さそり① 龍
vol.10 星座 さそり② ザリガニ/カンナカムイ(雷[龍]のカムイ)
vol.11 番外編 関連webサイト紹介
vol.12 星座 ねずみの倉 ねずみの倉/疱瘡のカムイ/日食
展示紹介 アイヌ民族の着物を展示中!
「ノチウ」投影開始! プラネタリウム「ノチウ」2021年4月に再登場
電子顕微鏡で・・・ 電子顕微鏡でクマの毛を見てみました!
ノチウ 講演会Q&A① 中川先生講演会Q&A アイヌ語/物語
ノチウ 講演会Q&A② 中川先生講演会Q&A カムイ
ノチウ 講演会Q&A③ 中川先生講演会Q&A 習慣/星/その他
1/19と2/16に再投影! [2022 冬]再投影/方位/四季の日出点と日没点
ノチウ秋投影&知里幸恵 10/9,10「ノチウ」再投影!& 知里幸恵の見た星空
ノチウ 投影レポート 2023年6月の投影内容/2030年6月1日金環日食
※連載は一旦終了ですが、今後も番外編を公開していきます。