『精霊の守り人(守り人シリーズ)』/上橋 菜穂子 著/偕成社
科学の本棚Ⅱ~科学と女性~
【私の一冊】吉村 由美子/自然科学研究機構 生理学研究所 教授
『精霊の守り人(守り人シリーズ)』/上橋 菜穂子 著/偕成社
「すぐに役に立たないものが役に立たないとは限らない」。作中に登場する、老呪術師から弟子への言葉は、基礎研究にも通じるものがあります。この言葉を聞く弟子のように、悩んだり焦ったり、時に嫌になったりもしながら、でも知りたいと望み、面白い発見をしたときの喜び。これはきっと、何かを知ろうとする人々に共通する思いなのだろうと思います。作中世界と現実との共通性は、知ろうとする人々の姿だけではありません。おそらく作者の文化人類学者としての経験が生かされているであろう、人々の営みの描写、いのちの流れの壮大さは真に迫るものがあります。
また、何となく信じられてきた「これは女性の役割、これは男性の役割」という既成概念を軽やかに吹き飛ばしているのも隠れた魅力です。読む年齢によって違う魅力を感じる物語だと思いますので、是非、早いうちに読んでみてください。