科学の本棚~科学と出会う・世界と出会う~

『海 』/加古 里子 著/福音館書店

【私の一冊】原/主任研究員(標本登録や、図書館等と連携した活動をしています)

『海』/加古 里子 著/福音館書店

 子どもの頃、加古里子さんの作品が大好きでした。「とこちゃんはどこ」や「だるまちゃんとてんぐちゃん」のように、たくさん書き込まれた人やものの中から目当てのものを探すのが楽しくて、同じ本を何度も何度も繰り返し読んでいました。

 そんな中、「海」は少し内容が難しくて、その頃はただ絵を眺めていた記憶しかありません。でも、この仕事についてから読み直して、この本のすごさがわかりました。ページをめくって海岸から海深くへ場面が移動するにつれて、視点は身近なものから地球の外から俯瞰したものへと移っていきます。そしてそれは、読み手にとっての海(個人的体験)を科学的視点で捉えた海(普遍的な知識・概念)に変えていくというしかけにもなっているのです。

 加古さんの絵本は、子どもに向けてとても真摯に、誠実に、きちんと科学を伝えようという姿勢が貫かれています。おそらく私は、加古さんの本を繰り返し読むことで「科学の目で世界を見る方法」を自然と身につけることができたのだと思います。