科学の本棚~科学と出会う・世界と出会う~

プランクトンウォッチング

『プランクトンウォッチング』/小田部 家邦 著/研成社

【私の一冊】原/パブリックリレーションズグループ(標本登録や、図書館と連携した活動を行っています)

『プランクトンウォッチング』/小田部 家邦 著/研成社

 多摩六都科学館の近くには川や池がないので、開館からしばらくの間は顕微鏡教室で見せられるプランクトンは培養しているボルボックスくらいしかありませんでした。

 ある日、リュックを背負ったおじさんが一人、教室に突然やってきました。「顕微鏡見せてるのってここ?」と聞かれ、「はい」と答えると、おもむろにリュックから顕微鏡と水の入った瓶を取り出して机に並べ、観察を始めました。驚いて何も言えずにいると、「ほらミカヅキモ。きれいだよ」「これかわいいんだ。はい、イタチムシ」と何か見つけるたびに顕微鏡を覗かせてくれました。その人のお話はとても面白くて、いつしか私たちスタッフの警戒心は消えて、どこでプランクトンがとれるか、どんな本で調べればいいか、いろいろと相談していました。「海や川に行かなくったって、その辺の溜まり水を見ればどこにでもいるよ」と探し方を教えてもらい、とてもワクワクしたのを覚えています。夕方、おじさんは「じゃ、また来るよ」と去っていき、翌月の教室に、また顕微鏡を担いでやってきました。

 そこから約20年に渡り、そのプランクトンおじさん・小田部先生には、ほぼ毎月のように教室にご協力いただきました。先生から教わった方法で庭に放置したタライの溜まり水や雑木林の落葉からプランクトンを採集することで、たくさんの種類をいつでも観察できるようになりました。そして今では多摩六都科学館も、教室の参加者や地域の学校の先生方に身近な場所で簡単にプランクトンを見つける方法やプランクトンの魅力を伝える立場になっています。

 奇しくもこの本は、先生がいらっしゃる前から、困ったときに真っ先に頼る大事な参考書として常に教室に置いていた本でした。コンパクトながら、プランクトン観察初心者の手を引いて、教科書とはまた違った側面からプランクトンについてやさしく教えてくれる一冊です。

※小田部家邦先生は2021年4月に逝去されました。心よりご冥福をお祈りいたします。

※8月にご紹介した小田部先生の著作『小さなプランクトンの大きな世界』はこち