髙柳雄一館長のコラム

大きな「ほうき星」がやって来る

houkiboshi_01

新年おめでとうございます。年が変わると、住んでいる世界まで改まったように感じるのは不思議な気がします。気持ちを新たにして物事を始める時に感じる清々しい気持ちを多くの人と共に持てるからかもしれません。理屈はともかく、子供の頃からいつも楽しくお正月を過ごしてきました。 そんなお正月の楽しみのひとつに、これから1年に期待できる色々な事柄に思いを馳せて想像する喜びがあります。 多くの皆さんと一緒に期待して想像を楽しめる出来事と言えば宇宙の話題があります。 昨年は5月に日本で25年振りの金環日食を、九州から四国、関東地方の広い地域で観ることができました。 また6月には金星が太陽面を通過する現象など、いくつもの宇宙の話題があり、

多くの皆さんが年始から期待して準備し、場所や天候に恵まれた方々は観察したことで忘れられない思い出を持たれたに違いありません。今年も、そんな期待を持てる宇宙の話題があります。肉眼でも見える可能性を持った大きな「ほうき星」の出現です。

houkiboshi_02日本の夜空に出現が予測されているのは、春と秋から冬にかけて現れる二つの「ほうき星」です。

春に出現する「ほうき星」はパンスターズ彗星と呼ばれています。3月10日頃、太陽に最も接近し、通過後の3月中旬は日没後、下旬以降は日の出前の夜空に出現するはずです。この彗星が太陽へ近づくと、どれだけ輝きを増し巨大な尾を引くか、日本の夜空でどのように見えるか、まだ不明な点も多いようです。多摩六都科学館プラネタリムの天文チームも最新情報を用意してお知らせする予定です。春休みの大きな話題になるでしょうね。

秋から冬、年末に出現する「ほうき星」はアイソン彗星と呼ばれています。11月28日頃、太陽に最接近します。この彗星は、春の彗星に比べはるかに太陽近くに接近し、通過後は地球にどんどん近づきます。そこで地球の夜空で大きな「ほうき星」の長い尾を真横から見ることも期待されています。年末に出現するこの彗星は肉眼で眺められる大彗星となると予測されています。天から届くクリスマスの贈り物として皆さんもご期待下さい。

「ほうき星」に関して私には色々な思い出があります。1986年春、76年振りに地球の夜空に出現したハレー彗星に関してはNHKでいくつもの特集番組を担当し放送しました。この時は番組全体のまとめ役で、私自身は空の条件の良い現場での撮影には参加できず残念でした。しかし、その後NHKでの「ほうき星」番組に関係し、1996年にはアリゾナで百武彗星を、さらには1997年にはモンゴルでヘール・ボップ彗星などの大彗星を空の条件の良い現場で眺めることができました。それ以来、大きなほうき星を見る機会を持てませんでしたが、今年は運がよければ二つの「ほうき星」を眺められる機会が訪れる素晴らしい年になりそうです。

夜空に長い尾を引く「ほうき星」の姿は一度目にしたら忘れられない思い出になります。今年の「ほうき星」への期待と想像を楽しむため手元にある資料から、歴史上の大彗星の姿を紹介しておきます。

一つはドイツにあるニュールンベルクの街のお菓子の箱に描かれた1577年秋に出現した大彗星です。この「ほうき星」は有名な天文学者ティコ・ブラーエが観測したことでも知られています。

houkiboshi_03uid000119_2012122709572901e29c64

↑以上4点の画像=ドイツのお菓子のパッケージより。星空に大きなほうき星が描かれている。

もう一つはフランスのバイユーにあるタペストリーに描かれた大彗星です。これは1066年春、イングランドのハロルド2世王がノルマンディー公ウイリアム1世との合戦中、夜空で目にした不吉な「ほうき星」として描かれています。この大彗星は後にハレー彗星であることが確認された有名な画像です。

uid000119_2012122709595437cafa21

↑1066年のヘイスディングスの戦いを描いたタペストリー。

夜空に広がる大きな「ほうき星」を、同じ年に二つも眺められる年になるのかどうか、過去の見事な「ほうき星」の姿を眺めると、春と秋の大きな「ほうき星」出現への期待がさらに高まるような気がします。宇宙の話題を楽しむには地上の平和が不可欠です。

皆さまにとって、この1年が素晴らしい年となりますよう願っています。そして、多摩六都科学館が皆さまにとってさらに魅力ある世界として過ごせる場所となるよう一層の努力をしていきたいと思っています。

——————–

髙柳雄一館長
高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学 系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフ・プロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)

時の姿をみる

12月になりました。日没の早さが気になり、夕方の駅前や街の広場では、色鮮やかなイルミネーションで描かれたクリスマスの飾りつけを仕事帰りに楽しむことができます。
役立つ日時も少なくなった今年のカレンダーを眺め、年内に残された日々の予定や行事を考えると日頃気にしなかった時の歩みの速さを意識させられます。
毎年、毎月、毎日、時の流れは同じはずなのに、なぜか年末になると時の流れが気になるのか不思議ですね。

uid000119_201212021508555907de4e ↑館内のクリスマスの飾り付け

多摩六都科学館に勤めて以来このコラムを書き続けてきました。その中で取り上げたテーマを振り返ると、12月と1月のコラムは、いつも時間について書いて きたような気がしています。年末年始という人間が決めた時間の区切りが、日頃、時の流れを意識しない人間に「時間」への注意を喚起するせいかもしれませ ん。
今回も「時間」のことを書いてみます。

今年は、天文現象の当たり年でした。
宇宙の話題が大好きな皆さんはすぐ思い出されたでしょう。
まずは、5月21日の朝、日本では25年ぶりに見られた金環日食です。朝早く、多摩六都科学館の駐車場に集まって、太陽が月に隠されて見せる金の輪をご覧になった方も多いことと思います。
次は6月6日に起こった金星の太陽面通過でした。こちらの方は生憎、関東地方では天候不順で見られなかった方が多いようです。
最後は8月14日の未明、金星の前を月が通過して金星を隠したいわゆる金星食でした。

uid000119_20121202151030bc06dc26 今年を振り天文現象を取り上げましたが、天文現象は「時間」のことを考えるとき、色々な視点を与えてくれます。天文現象はそれをどこで見るか「場所」が重要ですが、「場所」が決まると、地点によってその現象が見える「時間」、むしろ時刻が決まります。
天文現象は「時間」を指定しないと確定できません。
今回の金環日食が日本で25年振り、次回の金星の太陽面通過は2117年11月12日となるとか言われることが、そのことを示しているでしょう。
天文現象は人間に時間を意識させる宇宙からの贈り物とも言えるのです。

uid000119_20121202151134dba16af4 ↑1987年9月23日(沖縄)以降25年ぶり。次回は18年後、2030年6月1日(北海道)。

人間は時間を使ったり、時間に追われて生活したりしていますから、時間の存在を認めていると言えます。 しかし、時間とは一体何でしょう。 存在を認めているのに姿を見ることができない不思議な存在です。
しかし、それが流れていることは、時計がなくとも時間で姿を変えてゆく現象から判断できます。 天文現象は宇宙の遠い世界の出来事ですが、その変化は見事に時間の流れを示す存在です。宇宙にある物質は生成し消滅して行きますが、それは時の姿でもあるのです。
宇宙を見るとき、私たちは時間を見ているとよく言われます。 地上の世界も勿論、この宇宙の中にあり、その関係は変わりません。12月になって、時の巡りに合せて変化する人間社会の年末光景も、地上での時の姿を示しているのだと考えると愉快になります。

クリスマスとお正月を迎える月、12月を子供たちは楽しく使い、大人は予定と行事に追われ、12月に使われていると思うことがあります。 12月、時間に使われていると感じたとき、宇宙からの視点を使って、そんなことを思い出してみては如何でしょう。

——————–

髙柳雄一館長
高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科学 系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフ・プロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)