髙柳雄一館長のコラム

惑星の話題から

 1月末から2月の中旬に掛けて、明け方の夜空に南東の地平線上から南を通り南西の空へと高度を上げて、水星、金星、土星、火星、そして木星の5つの惑星が勢揃いして見えています。
 同じ夜空にこの5つの惑星が揃って位置するのはそれほど頻繁には起こりません。前回この様な惑星の勢揃いが見られたのは2004年12月の終わりから2005年1月始めに掛けてでした。今回は11年振りの出来事になったようです。
 こんなに得がたい機会です。私も朝早く起きて明け方の空を何度か眺めました。しかし、特に明け方の水星を見ようと期待した2月6日の土曜日早朝は曇り空で、5つの惑星ともの見ることはできませんでした。幸い、多摩六都科学館天文チームのスタッフの浦が今回の天文現象を撮影した写真があります。それをご覧になって頂くことにして話を進めます。
20160205名前(2016年2月5日6時頃 東京都東久留米市内にて南東方向を撮影。奥に見えるのはスカイタワー西東京。中央は月)
※木星は西寄りの空に見えているので、この写真には写っていません。

 今回話題になった5つの惑星は昔から肉眼で見える惑星としてよく知られてきました。水星以外の惑星に関しては、同じ夜空に勢揃いとは言えないまでも、それぞれの惑星を既に何度もご覧になった方は多いと思います。ここで、水星以外といったのは、5惑星の中でも水星は地上で夜空に見える機会が、他の4つの惑星に比べると限られているからです。その理由を金星の見え方を使って説明してみましょう。
 皆さんは、地上の夜空で金星が見える場合、宵の明星か明けの明星かの何れかになることをよくご存知でしょう。そうなる理由は簡単に言うと、太陽系の中で、金星が地球軌道よりも内側で太陽を回っているからです。この結果、地球から金星と太陽の運行を眺めると、ある場合には夜空で金星が太陽に先行した位置に見え、その時、金星は日の出前の夜空に太陽に先んじ東から昇ってきます。これが明けの明星ですね。これに対して、太陽を回る金星の軌道上では、地上から夜空の金星が太陽の後から運行して見える場合も生じます。このときは、西の地平線に太陽が沈んだ後、夜空に金星が見え、これが宵の明星となるのです。
 太陽系の中で、水星は金星よりもさらに太陽に近い軌道を通って太陽の周りを回っています。この結果、水星も地上から見ると太陽の運行に対して先行するか、後に続いて動くように位置する場合がうまれます。水星は金星のように明るく輝く明星としては見えませんが、地上から夜空に姿を見せるときは、やはり金星のように太陽に先行して動くときは夜明け前の夜空に、太陽より遅れて動くときは日没後の夜空に見えることになるのです。しかも、太陽を回る水星の軌道は金星の軌道の内側ですから、太陽からの距離は夜空でも金星ほど遠くに離れては位置できません。この結果、明けの水星も宵の水星も、地上から夜空に見える機会は金星に比べるとさらに短い期間になってしまいます。
 水星の夜空での見え方を、金星と比べて説明しましたが、太陽系の惑星の軌道を描いた図鑑などを見て確認し、地球との関係を調べるともっと理解しやすいでしょう。いずれにしても、金星と同じく水星も明けの夜空か宵の夜空にしか見えないのです。しかも、金星に比べると、見え方も見える期間も金星ほど目立たないことがお分かりになったことでしょう。今年の1月末から2月の中旬、水星が明けの夜空に輝くという、こんな素晴らしい機会が生まれていたのです。

 今年は1月に、アメリカ・カリフォルニア工科大学の二人の惑星研究者が、海王星のさらに外側に広がるカイパーベルトと呼ばれる小天体の世界で、これまで発見された比較的大きくて重い6つの天体の太陽を巡る軌道の振る舞いが、海王星に加えて、地球の約10倍の質量を持つ仮説上の惑星の存在を仮定すると、その重力の効果から説明できることを発表し大きな話題になりました。この惑星は木星や土星、天王星、海王星のような巨大なガス惑星であるとも推定され、太陽を回る長い楕円軌道を通り1万年とか2万年という長い周期の公転をする太陽系第9惑星としても紹介されていました。今後の観測成果にも期待が集まります。

 年明け早々に惑星の話題が続きました。今年はさらに惑星の話題が期待できます。先ほど水星を夜空に眺める機会には夜明け前と、日没後の宵の夜空にあるとお話しました。今回の五惑星勢揃いでは水星は夜明け前の姿を見せてくれたわけですが、今年は、さらに日没後の夜空に水星が姿を現し、その結果、日没後の夜空に五惑星が勢揃いして眺められる機会もこの夏には期待できるのです。今回は2月の明け方の夜空でしたが、それが実現するのは半年後の8月の初旬から中旬、日没後に当たります。
 手許にある8月5日頃の日没後の夜空の予想図を見ると、南の地平線上「さそり座」の赤い一等星アンタレスと土星、火星が夜空に目立った三角形を描き、南西の地平線上やや下がった当たりに「おとめ座」のスピカが輝き、さらに西寄りの地平線上に木星と月、西の地平線近くに水星と金星が位置しています。この時は、日没後の地平線上、金星よりも地平線からは高い位置で水星を見つけられるはずです。
 今回の5惑星勢揃いを眺められなかった皆さんにとって、素敵な夏の夜空のお知らせを紹介することができました。今年は惑星の話題が多い年になりそうですね。

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髙柳雄一館長

高柳 雄一(たかやなぎ ゆういち)

1939 年4月、富山県生まれ。1964年、東京大学理学部物理学科卒業。1966年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了後、日本放送協会(NHK)にて科 学系教育番組のディレクターを務める。1980年から2年間、英国放送協会(BBC)へ出向。その後、NHKスペシャル番組部チーフプロデューサーなどを 歴任し、1994年からNHK解説委員。
高エネルギー加速器研究機構教授(2001年~)、電気通信大学教授(2003年~)を経て、2004年4月、多摩六都科学館館長に就任。

2008年4月、平成20年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)