『不死細胞 ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』/レベッカ・スクルート 著/講談社
【私の一冊】石川/アテンダントグループ(科学館の入り口にて皆さんの滞在をサポートしています)
『不死細胞 ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』/レベッカ・スクルート 著/中里 京子 訳/講談社
私(わたし)という言葉はなにを指し、どこに宿るものなのでしょうか。
もし、細胞も「私」なのだとしたら、この本の主人公ヘンリエッタ・ラックスは人類で初めて不死細胞化した人物です。彼女の身体から採取された細胞は、その後医学の発展の裏で重要な役割を果たしました。しかしこの本を読むと、実は彼女の細胞は許可なく採取されたこと、そしてその貢献に値する報酬を一銭ももらうことなくこの世を去ったということがわかります。
人間の飽くなき探究心は今に至るまで素晴らしいものをたくさん生み出し、この地球上の文明を発展させてきました。しかしその歴史を細かく見ていくと、明るい面だけでなく、不平等の現実とこれからの課題が見えてきます。物事には様々な背景が存在することを、この本は教えてくれます。そして博物館の役割とはなんだろうとふと立ち止まって考えるとき、私はしばしば彼女の存在を思い出すのです。