科学の本棚~科学と出会う・世界と出会う~

エレクトロニクスからの発想

『エレクトロニクスからの発想』/菊池 誠 著/BLUE BACKS(講談社)

【私の一冊】吉野/多摩六都科学館ボランティア(からだの部屋でのコミュニケーションや、ボランティアイベント企画などをしています)

『エレクトロニクスからの発想 - ある技術の軌跡 - 』/菊池 誠 著/BLUE BACKS(講談社)

 戦後、日本は高度経済成長を遂げたが、そこで電子産業は大きな柱のひとつであった。電子産業は、トランジスタに代表される半導体技術の躍進がこれを支えた。この本の著者は、トランジスタが米国で誕生した、まさにその年、研究生活を始め、これを機に一生を半導体研究にあて、我が国が電子立国として世界に名をとどろかせるパイオニアとなった。その時代背景と貴重な経験が平易に語られ、読者をひきつける。また、著者が日本で初めてこの研究を始めたのがかつて田無にあった電気試験所(その後の電子技術総合研究所)であるのも興味深い。

 今となっては、古い時代の物語だが、この本を読み返すと、大躍進時代の日本の空気がよみがえってくる。著者は、当時、NHKなどのTVにも多く出演され、理路整然とした話で好感を持った方も多いと思う。この本は、半導体技術を学ぶためのものではないが、現在の日本の電子産業の原点を確認することができる。

 私は学生時代、著者による半導体の専門書や講演に大いに影響を受けて、卒論の研究テーマには半導体レーザを選んだ。本書は、すでに絶版になっているが、ぜひ図書館で探して読んでみてほしい。