科学の本棚~科学と出会う・世界と出会う~

ノラネコの研究

『ノラネコの研究』/伊澤 雅子 著/福音館書店

【私の一冊】原/パブリックリレーションズグループ(標本登録や、図書館と連携した活動をしています)

『ノラネコの研究』/伊澤 雅子 著/平出 衛 絵/福音館書店

 今では猫を飼うときは「部屋から出してはいけない」が常識ですが、私が子どもの頃は道を歩けば1,2匹のノラネコとすれ違うのは普通のことで、木や草の茂みが多かった我が家の庭もノラネコたちの狩りや休息の場だったようです。代々飼っていた猫たちも床下で生まれた子猫だったり、けんかに弱くて家に逃げ込んできた猫だったり、ノラネコ上がりがほとんどでした。

 1991年に出版されたこの本では、哺乳類の生態学を専門とする研究者がノラネコを題材に、その行動を調査する様子が描かれています。相手がノラネコでも、調査方法はいわゆる野生の動物と同じです。個体識別をし、行動範囲やルートをマップに落とし込み、時間帯ごとの行動やノラネコ同士の関わり合いを詳細に記録する。一匹のノラネコを、まるで刑事の張り込みのように24時間追跡する調査を見ているうちに、読者の私たちはノラネコの行動と同時に、生態学者の行動も知ることができます。

 日常を研究者の視点で見ると、今まで気づかなかった情報がたくさん見えてくる。そんなワクワクした体験ができる本です。