『木を植えた男』/ジャン・ジオノ 著/あすなろ書房
【私の一冊】廣江/パブリックリレーションズグループ(科学館の活動内容やお知らせを発信したり、ロクトニュースやチラシデザインなどを手がけています。)
『木を植えた男』/ジャン・ジオノ 著/フレデリック・バック 絵/寺岡 襄 訳/あすなろ書房
たった一人で荒地に木を植え続けた羊飼いの男。
その無償の行為は、不毛の地に緑と生命の輝きを蘇らせた。
1988年にアカデミー賞を受賞し、その後絵本化もされ、世界中で植樹運動が広まるきっかけともなった不朽の名作。みなさんも一度はどこかで目にされたことがあるのではないでしょうか?
私はフレデリック・バックというカナダのアニメーション作家が好きで、この作品もまず映像で知りました。フランス人作家ジャン・ジオノの原作に感銘を受けたバックが5年半の歳月と、2万枚におよぶ作画作業をほぼ一人でこなして作り上げたという30分ほどのアニメーションは、圧倒的なパワーで私を魅了しました。自然への畏敬の念、人間の営みに対する警鐘・・・彩り豊かに流れていく映像は、まるで色彩協奏曲のようで、とても美しく時に残酷でもあり鑑賞者に強く訴えかける力を持った素晴らしい作品でした。ですからその原画のスケッチを使用して出版された絵本を、静止画でわざわざ読むことはないな、と思っていたのです。けれど、ふとしたきっかけで手にして読んでみると、映像とはまた違った味わいで作品と向き合うことができ、絵本もとても感慨深いものがありました。
主人公の男は長い歳月をかけ、2つの戦争をまたぎながらただ黙々と荒地に木を植え続けました。見返りを求めることもなく、その後、偉業として称えられることなど、本人は全く想像もしていなかったのではないかと思います。ただ目の前にある、人間として必要とされていることを自らの責務として背負い一生を全うしたその孤独な姿はただひたすらかっこいい。
映像ではナレーションでストーリーが語られていきますが、絵本では原作者のジオノの言葉が文字としておこされ、バックの淡い、しかし力強い色彩のタッチが一枚の紙の上で見事に重なり、一枚一枚ページをめくるたびに、一対一で羊飼いの男と、または原作者のジオノと、あるいはバックと自分が対峙しているような感覚になります。映像では自然の彩り豊かなシーンが何度も蘇ることが多いのですが、むしろ絵本では人間の愚かな行為を描いた暗い配色の場面が印象に残りました。
自然を壊すのは人、しかし再生できるのも人です。SDGs、環境問題がとりざたされている今、改めて読み直したい一冊です。
※2011年に東京都現代美術館で開催されたフレデリック・バック展。
図録の表紙も木を植えた男。機会があればぜひアニメーション作品もご覧ください。