科学の本棚~科学と出会う・世界と出会う~

ドミトリーともきんす

『ドミトリーともきんす』/高野 文子 著/中央公論新社

【私の一冊】石山/パブリックリレーションズグループ(広報=Public Relations:科学館と利用者の皆さん、科学館と地域、科学館と社会との関係作りを担当しています)

『ドミトリーともきんす』/高野 文子 著/中央公論新社

 私は科学の本のまえがき/あとがきを読むのが好きで、中身をろくに読まずに満足してしまうこともしばしばです。科学者が対象に向き合う理由や姿勢が見え、たゆまぬ探求によって真理に近づいた感動を、おすそ分けしてもらえたような気持ちになります。そういう文章には、科学の文章とはまた異なる、詩のように心に響いてくるものを感じます。

 本書は登場人物のとも子さんが「科学の本棚」から次々に本を取り出し、4人の科学者と、想像上の会話を通してその著作を紹介していきます。

 終盤に登場する湯川秀樹の「詩と科学」では、遠くて近い、もしかしたら同じかも知れない「詩」と「科学」についてうたわれています。全体を通じて科学のなかに“詩”を発見した科学者たちへの親しみを新たにする一冊です。

 作者の高野さんは、あとがきにもあるように「自分の気持ち」をしまって、製図ペンを使い、線の強弱をつけずに「じつに静かな絵」を描いています。丁寧で、隙間がたくさんあるのに無駄な余白や線はひとつもない、そんな絵です。ちょっと難解な科学のエッセンスも、絵の力と画面構成で、軽々とリズミカルに表現しているのも素敵です。

 多摩六都科学館で行ったミニ企画展の開催前、「タイトル『科学の本棚』なんてどうですか?」と軽く口にしたのでしたが、いま改めてこの本を開き、プロローグの本棚の絵に大きく「科学の本棚」と掲げられているのを発見し、嬉しくなりました。心のどこかにこの本の存在があったのかも知れません。ちょっと反則かも知れないと思いつつ「科学の本を紹介する本」をご紹介しました。