『南極越冬記』/西堀 栄三郎 著/岩波新書
【私の一冊】本吉 洋一/情報・システム研究機構 国立極地研究所 特任教授
『南極越冬記』/西堀 栄三郎 著/岩波新書
1957年1月、西堀栄三郎隊長以下11名の隊員は、南極昭和基地で越冬を開始した。海氷上に置いてあった食料が流されたり、観測小屋が火災で焼失したりと、命の危険と隣り合わせの日々であったことが、本書を読むと痛いほど伝わって来る。
筆者が本書を手にしたのは高校一年生の時であった。南極は、将来自分が身を置きたい場所の一つではあったが、もちろんそれは夢の一場面でしかなかった。それから10年後の1981年、第23次隊の一員として昭和基地に降り立った自分の荷物の中に本書があったことは言うまでもない。
現在昭和基地には、第一次隊が建設した建物が一棟だけ残っている。元々は西堀隊長の居室であったが、その後はバーとして越冬隊員の憩いの場として長く使われていた。ここを訪れるたびにいつも思う。南極という圧倒的な自然の中で、創意・工夫を重ねて観測や設営に立ち向かった隊員の精神は、今の時代にあっても決して色あせることはないと。
↑こちらは2019年多摩六都科学館で開催した「科学の本棚」に展示したパネルです。