科学の本棚~科学と出会う・世界と出会う~

隊商 キャラバン


『隊商 キャラバン』/ハウフ 作/岩波少年文庫

【私の一冊】髙柳 雄一/多摩六都科学館 館長

『隊商 キャラバン』/ハウフ 作/高橋 健二 訳/へ―ゲンバルト 絵/岩波少年文庫

 子どもの頃に読んだ本で私の身近な本棚に今も置かれている数少ない本のひとつです。初めて読んだ時、「コウノトリになったカリフの話」や、「小さいムクの話」は、既にどこかで読んだか、誰かに教えてもらっていた気もしたことを思い出します。

 この本は19世紀ドイツの作家ヴィルヘルム・ハウフが1826年に発表した物語集です。

 アラビアの砂漠を旅するキャラバンの商人たちが退屈をまぎらすため、一晩にひとつずつ、「コウノトリになったカリフの話」や「幽霊船の話」など6篇の物語を語っていく形式で、私たちには接する機会もないアラビアの幻想的な世界が蜃気楼のようにあらわれます。

 沙漠を旅する隊商の、夜の憩いに語られる物語は、1話ずつ独立していますが、最後に旅全体が、あっと驚くひとつの流れの物語となります。語られる物語は異国を描き、美しく、ハラハラ、ドキドキするストーリー展開は、一度接すると忘れられない作品となっています。

 大人になって、私はこの本を何度も読みなおしたことがあります。魅力あるストーリーをシリーズで放送する番組を企画するとき、この本で使われた旅の道行きがとても参考になりました。暑い夏の日、童心を惹きつけたおとぎ話の世界に接する機会を求める人々には、とても魅力ある本の一つであると思います。