科学の本棚~科学と出会う・世界と出会う~

エッシャーの宇宙

『エッシャーの宇宙』/ブルーノ・エルンスト 著/板根 巌夫 訳/朝日新聞社 

【私の一冊】腰原/天文グループ(プラネタリウムでの星空解説、天体観望会、イベント企画・番組制作をしています) 

『エッシャーの宇宙』/ブルーノ・エルンスト 著/板根 巌夫 訳/朝日新聞社 

 “だまし絵”の名手として知られるエッシャー。小学校の教科書でも紹介されている芸術家ですから、名前を知らなくても、一度は彼の作品を見たことがあるという人は多いでしょう。この本は、私が学生時代に美術を学ぶきっかけとなった、大切な1冊でもあります。私がこの本を選んだ理由は、芸術としての視点がありながら、科学的な研究成果でもあると感じたからです。 

 本書はエッシャー作品の数々と、彼の生涯についてまとめられたものです。単純な作品の集積ではなく、エッシャー作品独特の、空間・平面の関係や、規則性や連続性、歪みについて分析し、彼が作品に込めたたくさんの仕掛けについて知ることができます。科学的な視点から作品を鑑賞することで新たな「発見」が生まれ、より作品への理解が深まる1冊です。 

 エッシャーの作品は「驚き」からはじまります。球体の中に描かれる人物や、らせん状に続く不思議な建物、同じモチーフの繰り返しが生き物に変化するなど…芸術の知識などなくても、年齢を問わず楽しむことができるものばかりです。実はエッシャー作品には、星や小惑星など宇宙を感じさせるモチーフも登場しています。エッシャーは「無限」を描くことに挑戦し続けていました。彼の生み出す、独創的で計算しつくされた緻密な世界に触れると、どこか宇宙を感じる瞬間があるかもしれません。 

 エッシャー作品のように、多摩六都科学館での「発見」や「驚き」の経験、そして「楽しい時間」が、みなさんの新しい世界を開くきっかけになればうれしく思います。