科学の本棚~科学と出会う・世界と出会う~

生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある

『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある』/岡 檀 著/講談社

【私の一冊】安村 直樹/東京大学大学院農学生命科学研究科 附属演習林 生態水文学研究所 所長

『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある』/岡 檀 著/講談社

 自殺率のきわめて低い徳島県旧海部町を対象にして自殺予防因子を明らかにし、自殺を予防するために私たちが日頃からできることを提言した、社会科学分野の研究です。

 町民にインタビュー調査をする虫の眼、そして全国旧市区町村データから海部町を俯瞰する鳥の眼を駆使しながら自殺予防因子を明らかにしていく様は読み進めていて心地良く、同時に社会科学研究の楽しさを知ることができます。

 意外なことに地方にありながら、町民がお互いに深く立ち入らない「ゆるやかなつながり」が海部町では形成されており、それが自殺予防につながっているようです。通常行われる自殺の多い町での研究ではこうした知見は見出せなかったかもしれず、同じ研究者として非常に興味深く感じました。

↑こちらは2019年多摩六都科学館で開催した「科学の本棚」に展示したパネルです。