科学の本棚~科学と出会う・世界と出会う~

調香師の手帖 香りの世界をさぐる

『調香師の手帖 香りの世界をさぐる』/中村 祥二 著/朝日文庫

【私の一冊】蓮田パブリックリレーションズグループ(たくさんの人に、多摩六都科学館のことを知ってもらう広報の仕事をしています)

『調香師の手帖 香りの世界をさぐる』/中村 祥二 著/朝日文庫

 多摩六都科学館の職員通用門には金木犀の木が植えてあり、今年もこの香りを感じて季節が秋に変わったことを実感しました。

 香りって不思議です。私たちの生活には香りやにおいがあふれている。人によって「好き」や「嫌い」の好みもある。そもそもどうして香りを感じることができるのか?そんなことを考えた時に手に取ったのは、資生堂で永年、香水や化粧水の制作、花香に関する研究を行っていた著者の本でした。

 香りについて美しい言葉が連なっているのかと思いましたが、青臭さについては「主として炭素数六個からなる青葉アルコールと青葉アルデヒドなどの八種類の化学物質である」と。私が持っていた調香師のイメージが、第一章の冒頭で変わりました。一般的にイメージされる花の香りについてだけでなく、森林浴の効能などの話から、メーカーを代表するフレグランス制作時のエピソード、香りにまつわる歴史、お香や体臭、お酒など、幅広い話題を取り上げたエッセイです。

 特に興味深かったのは、植物が「虫に対して防御物質を発すること」、そして人間も「嫌いなものに近づくと緊張のため、からだからにおいを発散すること」。どちらも危険を感じるとにおいに変化が現れるという共通点があり、植物も人間も同じ生きるものなのだと改めて思いました。

 なお嗅覚についての研究でノーベル医学・生理学賞が贈られたのは2004年と比較的最近の出来事で、それまでは「残された未知の感覚」と言われていたそうです。受賞対象となった論文は、においの認識のしくみについて書かれており、「347種類の嗅覚センサーで、においなどの成分の分子40万種類を嗅ぎ分けている」とのこと。今後どんなことが明らかになってくるのか、非常に興味深いです。

 映像や文章のように残すことのできない香り。なんて儚いのでしょう。読了後、もっと香りを感じてみたくなる本です。