ロクトリポート

プラネタリウム「ノチウ」vol.12 ねずみの倉

イランカラテ!

最近、マンガ「ゴールデンカムイ」でもアイヌ民族の星座が登場したとの噂。星座に関心を持たれた方にはぜひ当欄もご覧いただきたいと切に願う今日この頃ですが皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて今日は5月29日、もういくつ寝ると…来月には6月21日、夏至の日です! 「夏至は太陽が一年でいちばん高くて、昼間がいちばん長くなる」とご存じの方も多いと思うのですが、今日はここでもう少し確かめてみましょう。昼間が長いということは、夏至に日の出が最も早く、かつ日の入りが最も遅くなるのでしょうか。実はそうとも限りません。多摩六都科学館がある西東京市で、日の出が最も早くなるのは6月12日。一方日の入りが最も遅くなるのは6月28日なのです。なお、この日の出と日の入りの時刻には、観測地の緯度と経度が関係します。初日の出の時刻がニュースで紹介されるときも、日本各地ばらばらですよね。
では、夏至の頃、北海道の日の出は東京より早いと思いますか? 遅いと思いますか?

最も早い
日の出
夏至の
日の出
夏至の
日の入り
最も遅い
日の入り
西東京市 北緯35°東経139° 6/12
_4:25
6/21
_4:26
6/21
_19:01
6/28
_19:02
北海道最北端 宗谷岬 北緯45°東経141° 6/15
_3:43
6/21
_3:43
6/21
_19:25
6/26
_19:25
北海道最東端 納沙布岬 北緯43°東経145° 6/14
_3:35
6/21
_3:36
6/21
_19:01
6/26
_19:02

北海道の方が、夏至の日の出は早いことがわかります。ただし最北端の宗谷岬よりも最東端の納沙布岬(のさっぷみさき)の方がより早いですね。夏至当日の昼(日の出から日の入りまで)の長さも北海道の方が長めです。
>> 暦Wiki(国立天文台 暦計算室 webサイト内)
さあ、いよいよ「サ(夏):輝く太陽の下で生命の躍動する季節」! 冬が長く厳しい北海道ですが、芽吹き始めてからはいっきに春! 夏! 秋! と季節が駆け抜けてゆきます。
>> vol.6 星座 天体と季節

それでは、臨時休館と、全編生解説プラネタリウム「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」の投影中止に伴い、アイヌ民族の星座をweb上でご紹介する企画のvol.12です(初回は>> プラネタリウム「ノチウ」紹介 vol.0 )。
ご覧くださり、イヤイライケレ !!!!!!!!!!!!

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アイヌ民族の星の話題は、この書籍からご紹介しています。
<出典> 末岡 外美夫(すえおか とみお)著
『アイヌの星』/『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
書籍 人間達のみた星座と伝承

※星座名・星名表記は一部改めています。(アイヌ語指導 成田英敏氏)
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※スマートフォンなどの画面では、星座の名前が正しく表示
されないことがあります。星座名を正確に表示するには
「PC用の表示に切り替える」などの機能をお試しください。
例:ラが小さく表示されればOK → レタ
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■エルム・プ
では突然ですが過去のおまけクイズをもう一度。

Q3 かに座のプレセぺ星団のあたりにはエルム・プ【○○○・の倉】という星座があります。この○○○には生き物の名前が入ります。さあ、天に倉を立ててもらって住んでいるのはいったいどんな生き物でしょうか?
Q9 太陽を助けてほめられたという生き物がいます。4本足の生き物です。いったい誰でしょう?





<答> A3 ねずみ
<答> A9 ねずみ

そう、倉に住んでいるのは、ねずみでした。しかしなぜねずみが住んでいるのか…を今回ご紹介しましょう。
まずは、空での星の見え方から。

しし座、かに座、ふたご座の星々

これだけで「ああ、○○座だな」とわかる方はおられるでしょうか?

しし座、かに座、ふたご座の星々(星座線あり)
ご注目いただきたいのは かに座の中心部分。星がいくつも集まっている様子が見えますね。これはカニ味噌。ではなく散開星団M44、通称プレセぺ星団です。星が見やすい空でよーく目を凝らせば、肉眼で見てもぼんやりと白っぽいシミのように見つけられることもありますが、1609年にガリレオ・ガリレイが自作の望遠鏡で観察し、「星の集団だ! 」と気が付いた天体でもあります。また中国でも積尸気(ししき)と呼ばれ、知られていました。
では、アイヌ民族はこの星の集まりをどのように眺めたのでしょうか。

アイヌ民族の星座 エルムン・プ(ねずみの倉)

エルムン・プ( erumunpu = erumun・pu )【 ねずみ・の倉 】

星々の集まりは、エルムン(ねずみ)が蓄えたハル(食糧)、またはエルムンそのものだとされました。アイヌ民族にとってもねずみの害はあったに違いありません。ではそんなねずみがなぜ天の倉に住んでいるのでしょう。

「昔々、悪魔が、チュカムイ(太陽)を飲み込もうとした。悪魔は口を大きく開けた。しかしそれを見ていたコタンカカムイ(国造りのカムイ)がチュカムイを助けようと、からすを四千羽、エルムン(ねずみ)を四千匹、悪魔の口に投げ込んだ。悪魔はお腹いっぱいになったので、チュカムイは食べられずにすみ、アイヌも救われることになったのだ」
※からすではなく狐が投げ込まれたという伝承もあります。

そう、ねずみはその功績をたたえられ、天の倉に住んでいるのです。そして、アイヌはねずみに太陽を助けてもらった恩があるので、ねずみがアイヌの持ち物を噛んだり傷つけたりしても、あまり悪く言ってはならない、と伝えられました。

ただねずみは、やはりアイヌ民族にとって大歓迎という相手ではなかったようです。
トゥスク(巫術する者=巫者)がエルムン・プを見て、もしプ(倉)の中のハル(食糧)がはっきり見えると、「ウエカムイ(悪いカムイ)が腐った草をねずみにかえるので、たくさんのねずみが出る『ねずみの湧き年』になり、疫病にも気を付けなければならない」とされたともいいます。
一方、パコカムイ(疱瘡のカムイ)が現れて病を流行らせようというときには、エルムン・プの星は人々にその予兆を知らせ、ヌプルカムイ(巫術のカムイ)に姿を変えてパコカムイ(疱瘡のカムイ)に対抗するのだそうです。
※パコカムイ(疱瘡のカムイ)については vol.2 星座 金星 でもご紹介しています。

人はこれまでもずっと、疫病と隣り合わせで生きながら、生活も、物語や音楽や文化をも、途切れさせることなく今日まで生きてきたのですね。

・・・・・

さて、悪魔にのまれそうになった太陽。ピンときたかもしれません。太陽が食べられる……そう、日食を思い出しますね。アイヌ民族も、太陽が欠けるように見える日食をもちろん知っていました。では想像してみましょう、もし私たちが現代の科学の知識を持たずに突然太陽が暗くなるのを見たら? ある人は驚き、元に戻らないかもしれないと恐れおののき、またある人は太陽に向かって何かまじないを行うかもしれません。そして何が起きたのか理由をあれこれ考えたり、語り継いだりしたでしょう。アイヌ民族も同じでした。日食の呼び名から、何が考えられていたかがうかがえます。

チュパンコイキ( cupankoyki > cup・ankoyki )【 太陽・が捕られた=日食 】
チュ・ライ( cup・ray )【 太陽・が死ぬ=日食 】
チュプ・サンペ・ウェン( cup・sanpe・wen )【 太陽・の心臓・が病む 】
トカ・シクンネ ※( tokam・sirkunne )【 日中・が暗くなる 】
チュ・チルキ( cup・ciruki )【 太陽・が呑まれた 】
トカ・チュ・ライ( tokap・cup・ray )【 日中の・天体 [太陽] ・が死ぬ 】
チュ・カシ・ク・カム( cup・kasi・kur・kamu )【 太陽・の上を・魔者・がかぶさる 】
※トカ・シクンネについて
トカはトカの誤りではなく、旭川地方などでの言い方とのことです。

太陽が魔者に飲み込まれて起こるもの、とアイヌ民族に信じられていた日食。その魔者の正体は、はっきりとはしませんが、

オキナ( okina > oki・na )【 鯨・の化物 】
シオキナ( siokina > si・okina )【 大きな・化物鯨 】
シトゥンぺ( situnpe > situ・un・pe )【 山奥・にいる・もの=黒狐 】
ネスマリ( kunnesumari > kunne・sumari )【 黒い・狐 】

といった伝承があります。この魔者の正体がはっきりしない、というところも、日食への畏怖や現象の不可思議さがあらわされているように思います。

もういくつ寝ると…来月には6月21日(日)、夏至の日がありますが、今年の夏至の日にちょうど日食が起こります。最近の東京での日食は2019年1月6日(日)、そして2019年12月26日(木)でした。
(>> 参考:「2019.1.6(日)は部分日食!!」 多摩六都科学館ロクトリポート )
6月というと東京は梅雨の季節でもありますが、晴れ間を期待したいですね。なお、6月21日の日食は夕方の西の空で観察できますが、さらにその数時間後、日の入り後の西の空にはエルム・プも見えていますよ。そして、6月21日の日食を逃すと、東京ではなんと2030年6月1日(土)まで10年間日食が見られません!  近日中に、今回の日食の解説や観察方法などをまとめたリーフレットを ここロクトリポート にも掲載予定ですのでどうぞご活用ください。このアイヌ民族の星座の連載も時々は更新する予定ですので、ぜひまたのぞきにいらしてください。

…というわけで、アイヌ民族の星や星座について計13回でご紹介してきたこの連載も、今回でひと区切りとなります。星、空、天文学、そしてアイヌ民族について、より関心を深めていただく機会となっていれば嬉しく思います。また、アイヌ民族が語り継ぎ、末岡外美夫さんが書籍『アイヌの星』『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』にまとめられた星についての伝承を、皆さんへお手渡しする一助となれていたら本当に嬉しく思います。
アイヌ民族の星のお話をさせていただき、受け取ってくださいまして、
イヤイライケレ !!!!!!!!!!!!

それでは、最後のクイズの答え合わせです!

Q12 あいさつのことば「スイ ウヌカアン ロ」。どんな意味でしょうか?

<答>
スイ ウヌカアン ロ(suy unukar=an ro)【再び・会う、私たちが・しましょう】
それでは皆様、スイ ウヌカアン ロ!

全編生解説プラネタリウム 「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」
開館が再開次第投影開始 ~ 5月31日(日)まで
※臨時休館延長に伴い中止が決定いたしました。再投影は検討中です。(5/7)終了

講演会「ことばから見るアイヌ文化と自然観
2020年5月30日(土) 17:10~18:40
講 師:中川 裕(千葉大学 文学部教授)
4月11日(土) 10:00より受付開始
※今後の社会情勢に応じて変更になる可能性があります。

※延期が決定いたしました。日程を調整中です。(4/17)
※一旦中止とし、改めて実施を検討いたします。(5/19)終了

<出典>
末岡外美夫(すえおかとみお), 1979. 『アイヌの星』
末岡外美夫(すえおかとみお), 2009. 『人間達 (アイヌタリ) のみた星座と伝承』
中川裕, 2019. 『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』 集英社

<全編生解説プラネタリウム「ノチウ」web連載@ロクトリポート>(リンクはご自由に)
vol.0 番組紹介            「ノチウ -アイヌ民族の星座をたずねて-」/アイヌ民族の星座
vol.1 星座 北斗七星①    ウㇷ゚シノカ・ノチウ/クットコノカ・ノチウ/北斗七星/恒星カムイ
vol.2 星座 金星            金星/疱瘡のカムイ/フレケタ/セレマック/ベテルギウス
vol.3 星座 北斗七星②    シアラサルカムイノカ・ノチウ(尾の長い熊)/弓矢/舟
vol.4 星座 月と太陽       月/ア(月の知人)/三角星/鯨/イナウ/ひしゃく
vol.5 星座 四つ星          かたつむり/船/レラ・チャロ(風の吹き出し口)
vol.6 星座 天体と季節    月の形/朝昼夜/季節
vol.7 星座 めぐる星       追われる娘たち/蛇/踊る娘たち
vol.8 星座 動物たち      狐/貂/ホケウ・ノチウ(狼)
vol.9 星座 さそり①      龍
vol.10 星座 さそり②    ザリガニ/カンナカムイ(雷[龍]のカムイ)
vol.11 番外編              関連webサイト紹介
vol.12 星座 ねずみの倉  ねずみの倉/疱瘡のカムイ/日食
展示紹介                    アイヌ民族の着物を展示中!
「ノチウ」投影開始! プラネタリウム「ノチウ」2021年4月に再登場
電子顕微鏡で・・・  電子顕微鏡でクマの毛を見てみました!
ノチウ 講演会Q&A①    中川先生講演会Q&A アイヌ語/物語
ノチウ 講演会Q&A②    中川先生講演会Q&A カムイ
ノチウ 講演会Q&A③    中川先生講演会Q&A 習慣/星/その他
1/19と2/16に再投影! [2022 冬]再投影/方位/四季の日出点と日没点
ノチウ秋投影&知里幸恵 10/9,10「ノチウ」再投影!& 知里幸恵の見た星空

※連載は一旦終了ですが、今後も番外編を公開していきます。